2011年2月20日日曜日

ドイツで鍛える生活 #54

**** いい人欲 ****

いよいよ仕事もあと2日。
『退社』はドイツでも内緒にする風習があるようだが。
ドイツで鍛える生活 #53
何かしら挨拶くらいすることになるのでは?
と思い、スピーチなるものを考えていた。
『このすばらしいチームで一緒に働けて云々〜…』
ウーン…。オチが…。

もーっ!オチがなーーい!と。
しばらく布団の上をゴロゴロ転がっていたのだが。
そのままフテ寝。
オチが見つからないストレスで。
どんぶり飯を食う夢を見た。

いよいよ。課の定例会議の日。
スピーチ。あるならここでしょー。
と思ったのだが。
定例会議自体がなかった…。

では。
最終日はどのように会社を去るか。
実は。ずーっと。
気になっていることがあるのである。
こちらの会社では。
『今日はボクの誕生日です。ケーキ焼いてきました。
キッチンにあります。みなさん食べてください』
みたいなメールが流れるのである。
で。これが誕生日だけでなく。
初出社日とか、
勤務開始1周年記念日とかにも。
男女問わず、皆、ケーキを焼いてくるのである。
では。辞める時はどうなのよ?

うちの会社、だーれも辞めないので。
前例がなくてよくわからないのだが。
日本だったら『お世話になりました』と。
菓子折りを置いていくのもありである。
じゃあ。やっぱり。ケーキか!
と思ったのだが。
今までのケーキをよーく振り返ってみると…。
誕生日、結婚、子供が産まれた、初出勤日、入社記念日。
やっぱり。皆お祝い事である。
『会社、今日で去るのでケーキ焼いてきました』は。
ちょっと違うかも…という気がしてきて。
焼かない方向性で行くことにした。

そして。この地を去る前に。
もう一つ気になっていることがあった。
1ヶ月ほど前。ドイツ人宅で
『日本食クッキング会』なるものを開催し。
ドイツで鍛える生活 #50
「次はスシやりましょう!」と言われていたのだが…。
さて。どうしたものか。
話が来なければそのままサクっと。
ドイツを脱出しようかな〜と思っていたが、
やはり。そこの奥さんから
『スシはどう?』とメールが来た。

でたー。スシ…。

一体。誰がどのようにスシを海外に紹介し。
なぜスシだけが唯一の日本食であるかのように伝わり。
なぜこんなにも、
スシだけが1人歩きを始めたのか知らないが。
私が海外で過去も現在も。
どれだけスシを期待され。
どれだけスシを背負って生きてきたかわかるかー。
コノヤロッ(←たけし風)。

で。まあ。話を戻すと。
小さい子供がいるお宅なので。
また出張料理人として行くわけであるが。
表向きは『一緒にやるクッキング会』なので。
買い出しも分担してくれる。
しかし。テキトーな米を買われてもダメだし。
かと言って。なにも買わせないと(←上から目線)。
『一緒にやっている』感が薄れる。
よって。
その奥さんにも買えそうなものを選択し、
じゃあ。卵何個とネギを買っておいてもらって〜。とか。
事前にアレンジするわけである。

そして。問題のクッキング。
人んちのキッチンと人んちの鍋で。
うどんを茹でるのはいいが。
米を炊くのはハードルが高い…。

しかも、その家。
普通の家と異なり超ハイテクキッチン。
火加減もよくわからんので。
あそこでぶつけ本番で米を炊くかと思うと…もうブルー。

そして。鍋。
鍋の蓋がちゃんとしていて且つ、
適した大きさでないとうまく炊けない。
できれば慣れた自分の鍋で。
自分ちで米をといで数時間水に浸けておきたい。
そのままご飯を炊き、酢飯を作っておきたい。
しかーし。そこまでやってしまうと
『スシができる過程をみせる』
というエンターテイメント性の多くが失われ。
米を『とぐ』という、
日本独自の米文化の過程も見えない。
それに。手伝ってもらうスキも与えないと。
相手も恐縮してしまう。
相手に『悪いな』って思わせるようでは。
エンターテイメントとしては失格である。
(そもそも。ドイツ人に『恐縮する』という感覚があるのか…)
かといって。現場で米炊きに失敗すると。
エンターテイメント自体が失われてしまうという…。

あーっ。もーっ。
ほんと。ニッポン=スシと紹介した人を恨む。
これはクッキング会というか。
もう。いわゆるエンターテイメント的Showなのである。
しかも。参加型のショー。
そして、成功も失敗も。
その脚本家兼現場監督+演出家の私にかかっているわけで…。
もー。わたしゃ、ほんと。
ニッポンを背負っているのですよー。
(ま。誰に頼まれたわけでもないんだけど…)

って。まあ。
そんなに悩むなら引き受けなければいいじゃないか。
という話なのであるが。
なぜに引き受けてしまうかというと。
せっかく日本食に興味をもってくれたなら〜。
それで、日本食をおいしいと思ってくれるなら〜。
という気持ちは確かにあるし。
それが大きな理由でもあるのだが…。
言い訳でもある。
というのも。
本当のところは。たぶん。
いい人でありたいというか。
いい人と思われたい。
という私の欲のためにやっているのだと思う。

退社時のケーキをどうするか悩むのも。
スピーチのオチを探すのも。
『いい人欲』なわけです。
いやー。ほんと。いやらしいですねえ…。
これ。文字で表すと。
ほんとひどい欲だな。

問題のスシクッキングは2週間後。
ドイツ撤退の前夜である。
その前にもう一つ山場。
毎週月曜恒例の会社のチームランチもあるのだ。
これはやきそばで行く予定。

さて。
肉とじゃがいもとスープとピクルス以外。
受け入れてくれないルーマニア人同僚たちは
やきそばに対してどう出るのでしょうか。
(近日中にアップ予定)
口に合わなければ、昼抜きになるのよね…。
あー。それもプレッシャー。

あー。なんかほんと食に関する悩みが多い。
フツーの会社員としてドイツ来ただけなんだけど…。
ドイツで働いている日本人のサラリーマンたち。
皆、こんな状態なんだろうか。
(絶対ちがうよねえ?)

どうでもいいけど。
日本政府よ。
私に文化交流基金を分けてください。


                          * * * * *  photo * * * * * *
日本ではあり得ないこんな個室の職場環境ともあと2日で終わり。
これだけは惜しいねぇ…。この部屋、10帖近くある。平社員なのに。

2011年2月14日月曜日

ドイツで鍛える生活 #53

**** いよいよ会社残り1週間 +ちょい ****

辞表を提出してから数週間が経過した。
ドイツで鍛える生活 #51: 辞表提出

会社を辞める時というのは。
日本ではわりとコソコソするもんである。
で、最終日に。
『本日をもって退社します。皆様のご多幸とご発展を云々〜』
的なメールが流れ。
おお。そうだったのか。
というふうになるのだが。
はて。ドイツではどうなのかというと。

どうやら。
やっぱりコソコソするものらしく。
秘書のお姉ちゃん(手続き担当)には。
『誰にも言わないからね』と耳打ちされた。
で。
おお。秘密にするもんなんだ。
と思った次第なのだが…。
その1週間後には、別の部署の人が。
私の所にコソコソやって来て。
「ねえ。辞めるんだってっ!」と言ってきた。
そして。また。
「誰にも言わないからねっ」と。耳打ちされた。

ほう。なるほど。
一応。秘密扱いらしいのだが。
ま。それは皆の気分だけで。
やっぱり。
どこかでは噂として広まっているのであろう。
このへんも日本と同じである。
というわけで。
なに食わぬ顔で普通に仕事をしているのだが。

しかしまあ。
もうすぐ去るとわかりつつ。
一つのプロジェクトに携わるというのは妙なもんで。
残業までして一生懸命やるのもわざとらしいし。
10時に来てそそくさと5時に帰れば。
辞めるからって、テキトーにやりやがって〜。
となるわけで。
そのどちらの感情にも触れない程度の行動を取るのであるが。
もう今さら重要なプロジェクトには関わらないので。
やっぱり。部外者的意識はある。
そんなところへ社内メールが流れた。

              * * * * *
皆さん、
社内全体の結束を高めるため、
顔写真入りのメンバー表を作り、
社内全体でシェアします。
自分の職種、家族と趣味を提出してください。
           * * * * *

えー。趣味と家族構成ですかあ…。
ま。私は辞める身なので。
さすがにもうこれはいいだろうと。
提出しなかったのだが。
私も出せと言われて出す事に。
フム。どうやら。最後の最後まで。
この会社の一員として扱ってくれるようだ。
まあ。有り難いけれど。
じゃあ。もう来なくていいよ。とか。
言われる可能性はないってことかあ。

しかしまあ。
こちらの会社って。
仕事は仕事。
プライベートはプライベート。
なのかと思っていたのだが。意外や意外。
なにかとイベントを催したりして。
仕事以外での結束みたいなものを求めるというか…。
仲間意識を持とう的な活動がけっこうあるのである。

さてと。家族メンバーか。
いないんですけど…『None 』とか書いていたら。
リューベックのドイツ人の大ボスが。
私のオフィスへ来た。

「どう?調子は?日本への引越の準備は進んでいるかい?」と。
ああ。そうそう。撤退時の一番の問題。
銀行の最後の引き落とし…。
「いや。まあ。ちょっと銀行をどうしようかと…。
電気とかインターネットとかの支払いは1ヶ月後だから。
銀行口座を閉めるにも閉められないし〜。でも。
口座を維持するにはドイツの住所が必要だしねぇ」と私。
「なんなら会社の住所使っていいよ。
なんでも不都合な事があったら、会社使っていいからね』
とそのボスは言って去っていった。

おお。
去るという決断をした人に向かって。
なんと。や、やさしいではないかー。
まだチームの一員どころか。
去った後も協力してくれるとはなんと有り難い。
やさしいじゃーん。ドイツじーん!
(↑いきなり好印象)
あれ?。しかし。これ。
ドイツが腐れ縁になったりして〜。
『ドイツで鍛える生活アゲイン』とかは。
勘弁してほしいなあ…。

さて。その。
社内の団結を高めるとかなんとかのメンバーリスト。
ドラフトが上がってきたのだが…。
あれ〜!? 3分の1くらいの人が。
デフォルトで入っている顔写真と職種以外空欄。
そうなのよねー。こっちの人って。
やれ。って言われても。
やらなきゃいけないという感覚がなく。
まあ。これは別にいいだろう。と。
自分で判断したらやらんのである。
しかし…。
あんなにリマインダーが出てても。
やらんという姿勢を保つのか。
すごすぎる…。

で。この趣味欄がわりと面白い。
まあ。職業柄、趣味は写真とか。
コンピュータ関連が多い。
お国柄だなあと思うのは。
うちの会社は80%くらい男性なのだが。
趣味、ピアノ。という人多数。
さすが。クラッシック音楽の国である。
さらに見ていくと。
突っ込みどころ満載の趣味も。

趣味: 家族。
いやー。まあね。このへんはねえ。
まあ言いたいことはわかるが…ねぇ。
それ。趣味って言ってしまいますか…。

はい。次。
趣味: キリスト教。
あー。この人。
私のオフィスまで来て。
ジーザス・クライスト。はいかにエラかったか。
という話を永遠としたのよねえ。
趣味だったのか。
しかも。彼のコンピュータの上に、
いつも聖書が乗っかっている…。

次。
趣味: 自己啓発。
おーーーーい! 
もー。さすがっ。外人の管○職。
言う事に『ケンキョ』さというものがない。


自分をエラくみせたり、
強くみせるより。
わざと落としてみせるくらい方が。
部下はついて来るもんだと思うのだが…。
謙虚にしてては生きていけんか。ここでは…。
主張せんとね。

じゃあ。私も。
最後の1週間。もう意味ないんで。
行かなくていいですかー。
とか主張すべきか。

言えーん…。そんな事。
それなりのやる気をみせつつ。
働いちゃうんだろうなあ…。

やっぱし。
自分は日本人であったー(←なにを今更)。

2011年2月7日月曜日

ドイツで鍛える生活 #52

**** 修行プレイ  ****

辞表を提出したのが前回。
ドイツで鍛える生活 #51
さて。日本的な考え方でいくと。
残りの日々は有給消化に当てられる。
となると。
私は。今年分の有休をまだ使っていないので。
まる一年分、25日余っている。
あれ〜?!
もしや。もう会社に行かなくてよかったりして〜。
と思ったが違った…。

私は2月末の退社なので。
今年は2ヶ月間の労働と換算される。
(会社の1年は1月スタートで有休も1月に支給される)
よって。
有休25日間 ÷ 12ヶ月 x  出社月数2ヶ月 = 4日。
というわけで。使っていいのは4日間。
えー。確かに、理にはかなっているけど…。
一回支給したもの取り上げるんですかー。
日本だったら持ってる有休、無条件で全部使えるけど。
まあ。考えてみればそっちの方がおかしな話か。

4日ねぇ…。と。
有休の申請をしていると。
「東京に帰るのはエキサイティング?」と。
ルーマニア人のボスが聞いてきた。

「えっ。あ。ンー…」
Yesと言うと、ここを去ることができてハッピー。
と言っているのと同等になり。
なんだかとても失礼になる。
しかし。自分で帰ると選択した手前、
Noと言うのもおかしな話で…。
「いやまあ。大きな移動をする時ってのは。
いつでもエキサイティングだよね」
と、曖昧な返事をしてしまった。

「So..... You don't like リューベック」

あー。もー。ズケズケ聞くなあ…。きゃー。助けて〜。
「いやー。そうじゃなくてー」モゴモゴ…。
「まあ。小さい街は生活が家族主体だから、
確かにライフスタイルは違う。そうだね、
きっと私に家族がいたらまた違っただろうけど…」
と。またYesでもNoでもない返事をした。

実際。
日本でも大都市と地方の生活は違う。
『逃げ』だけど、
そういう客観論だけ言いたかった。
リューベックは云々とは語りたくなかった。
私は。ここの住人だけれど。
やっぱり本当の住人ではない…。
客観論以上の事はもっと長く住んでいる人に。
言う権利がある。

すると。
私のYesでもNoでもない返事に対し。
「あー。わかる。ボクもシングルだから」
と、ボスは言った。
「一年目はもう悲惨だった。会社と家だけ。
週末。誰とも話さない日が続いて…。で。
仕方なく、声を出して自分と話してたよ。
そうしないと声を出すチャンスすらなかったしね」
と。恥ずかしそうに彼は笑いながら言った。

なんだか。ハッ。とした。
あっ。彼もそうだったんだ…。
彼は身体も大きく豪快で明るい人である。
そんな人がひとりポツンとこの土地に来て。
そんな日々を1年続けた。
でも彼は。
ルーマニアに戻るわけにはいかない…。


うちの会社には。ドイツ人以外に。
インド人とルーマニア人がいる。
全体の20%くらいが彼らである。
彼らの場合、国に帰れば貨幣価値が違うので。
給料は数分の1から10分の1程度まで下がる。
皆。金のために来ている。
皆。家族にいい生活をさせるために。
ここにいる。
1人で来た私のボスも。
ルーマニアに仕送りしているようであった。

ある同僚は。
私がドイツで育ったから。
ここにいるのかと思っていた。
(ってか。私。ドイツ語片言でしょーがーっ)
別の同僚は。
私の家族がドイツにいるから。
私はここにいるのかと思っていた。
会社のドイツ語の先生は。
彼氏がドイツ人で一緒なんでしょ。
と当たり前のように聞いて来た。

で。私が。いや。
『1人なんだけど…』というと。
皆。口を揃えて。
「えーーーっ。君は何でここにいるの?」と。
いや。まあ。なんと言いますか。
私が来た理由。それは…。

ウーン。ドイツ…。
仕事で単身、ドイツの片田舎って〜。
かなり辛そうだけど。
人生に波風という色を添えるには。
ちと。オモロイんでないの〜。
しゅ、修行じゃー!と。
そんなノリだけであった。

そう。結局。私は。
私の『修行欲』を満たすために来たのである。
ま。いわば。
単なる修行プレイ(←なんのこっちゃ)。
私に覚悟はなかった。

で。結果。私も。
ルーマニア人ボスと同じような経験をした。
そして。自称。日本一。
単身赴任のお父さんの気持ちがわかる女になった。
そう。なんかわかるのよね…。
もー。女なのにーっ。
こんなにも分かってよいものか…。

そして。
貨幣価値が同じとという甘えにすがり。
ま。今回。タイミングもいいし。
ほな。お父さんは帰りましょうか。
というわけだが。
なんだか。この甘えが。
この背負っているものの余りの軽さが。
とっても恥ずかしかった。
守るべきもののためにここにいて。
いつかは帰ろうとしている皆の姿が。
なんだかとっても強くみえた。

私は。修行プレイ。
もー。幼稚すぎるーっ。

ま。そんなこと言っても。
日本に行くと決断したのだから。
とりあえず。親には戻ると言わねば。
ま。親もいい年の老人だし。
無期懲役のような状態で。
ドイツに旅立った娘が一転、帰ってくるとなったら、
まあ。嬉しかろうと。メールをすると…。

「えー。なにそれ。もっと居ろよー」とマユゲ父。
「えー。そうなのー。なーんだ」と拍子抜けのマユゲ母。
「ってか。もっと居てくれないとー。アタシらだって。
行こうかと思ってたのにー」と再び父。
(ってかアンタら、私が海外居る時来たことないじゃん!)

と。いきなり帰ってくるな攻撃。
えー。そんな〜。

友人は。
「帰ってくるって…。そんなんでどうするつもり?」

きゃーっ。
こりゃー。日本の生活も。
鍛える生活になりそうだ。