**** 最後のチームランチ ****
1989年12月。
共産国だったルーマニアで革命が起きた。
共産国だったルーマニアで革命が起きた。
そして。
その独裁者の象徴、チャウシェスクが銃殺された。
当時。中学生だった私はその一連の東欧革命を。
当時。中学生だった私はその一連の東欧革命を。
なんだか。スゲー。と思って見ていた…。
そして。まさか。将来。
自分とルーマニアが。
どこかでクロスするとは思ってもみかった…。
* * * * * * * *
さーて。
出勤も残すところあと2日になったのだが。
実はまだ大仕事が一つ残っていた。
そう。この1年数ヶ月。
わたしが試行錯誤を繰り返してきた、チームランチ(注)。
その番が再びやってくるのだ。
(注: 会社で毎週、一人がチーム全員、5人分のごはんを作るイベントで、担当が順番に回ってくる)
始めの頃こそ、私の番が来ると。
同僚のルーマニア人たちは。
次は日本食だー。と。
はしゃいだものの。
いざ。現実としてお好み焼きなどが出てくると。
いざ。現実としてお好み焼きなどが出てくると。
西洋とはまるで違う食べ物に戸惑い。
肉のおいしそうな香りもしないわ。
鰹節は自発的に踊っちゃうわで。
未知な食べ物に大いに困惑。
彼らの『食事』という概念から大きく離れた物は。
おいしいとかまずいとかいう。
次元の話ではなかった…。
サラダを出してもパリパリしたところを残し、
カレーもNG。魚は苦手。
お好み焼きもダメ。
目新しいものはダメ。
お肉とジャガイモを出すと喜ぶ。
(ルーマニアもドイツと同じく寒冷地のためか、ドイツ人同様、肉とジャガイモが好き)
(ルーマニアもドイツと同じく寒冷地のためか、ドイツ人同様、肉とジャガイモが好き)
なんだか私は。
彼らの味覚の封鎖性に大いに失望し…。
慣れていない。経験がない。ということが。
どれだけ壁になるか絶望するほど知った。
日本で皆が喜んでくれた料理は。
誰も喜ばなかった…。
料理は好きだし、得意だと思っていただけに、
もー。かなり撃沈。
もー。かなり撃沈。
ベルリンでも、オーストラリアでもウケたのに〜。
もー。なんで〜?田舎もんがーっ!と。
自分を責めずに彼らを責めた。
そして。
チャウシェスクだって責めた。
チャウシェスクめ〜。お前のせいじゃ〜。と。
もー。なんで〜?田舎もんがーっ!と。
自分を責めずに彼らを責めた。
そして。
チャウシェスクだって責めた。
チャウシェスクめ〜。お前のせいじゃ〜。と。
味覚の封鎖性を。
過去の共産国の封鎖性のせいにした。
過去の共産国の封鎖性のせいにした。
自由にものが手に入る社会でなかったせいだと…。
まさかねぇ。チャウシェスクが…。
私の日常生活に介入してくるとは思ってもみなかったが…。
(ってまあ。勝手に怒りの矛先を作っただけとも言う…)
ともかく。この世には。
ともかく。この世には。
自分がおいしいと思うものを。
全ておいしくないと思う人がいることも初めて知った。
そして。
私は日本食を封印した…。
しかーし。
やはり。残りの日々もわずかとなると。
やはり。残りの日々もわずかとなると。
彼らにもおいしいと思える日本食もあったのではないかと。
後悔し始めていた。
とりあえず、彼らの好みを分析すると…。
寒冷地 + 大陸系の食文化なので。
魚は好まないが肉は大好き。
パリパリした生野菜より、
ヘタヘタになった煮込み野菜やピクルスを好む。
(長い冬に備えて生野菜より保存食系が発達したと思われる)
あと。保守的な西洋人の場合。
煮物のような、
食事なのに『甘い』というものは苦手な人が多い。
甘いものはデザートであり。
食事は塩味のものなのである。
というわけで。
これらを踏まえると。
これらを踏まえると。
やきそばならイケるような気がしてきた。
そして。
何百キロも離れたデュッセルドルフの人にお願いし。
(注: デュッセルドルフは日本人街があり、日本食材が手に入る)
やきそばを入手!
よーっし!最後の最後だ。
食べたことないもので。
『旨い!』って言わせてやろうじゃねーのーっ!
* * * * そして。チームランチ当日の朝 * * * *
彼らの好みに合わせ、野菜をクタクタに炒める。
それから。
焼きそばのコツなるものをネットで調べると。
麺を炒める時に鰹節をいれると味が良くなるとの事。
しかーし。彼らの中には。
魚 = くさいという人もいるので。
魚 = くさいという人もいるので。
『魚が入っている』とバレると食ってくれない。
なもんで。鰹節を粉々にしてバレないように…。
もし。聞かれたたら『ミートフレーク』と答えるもんねー。
ハッハー!
よーし。下準備完了。
よーし。下準備完了。
やっぱなあ…。会社のヘボい包丁ではバラ肉の塊は切れず。
ゴロンゴロンした肉になってしまった…。
ま。皆。肉大好物だからいっか。
なんとなく焼きそば完成!
さて。皆を呼び、皆カフェテリアに集合ー!
ほらほらー。見た事ないでしょー。この食べ物っ!
ほらほらー。見た事ないでしょー。この食べ物っ!
どやっ!
あれ~!?
見た事もない食べ物に興味を示さないというか…。
あれ~!?
見た事もない食べ物に興味を示さないというか…。
皆。見ただけでうつむき、
『だんまり…』になってしまったー。
『だんまり…』になってしまったー。
あー。もう敗北決定。
1人の子はもうほんのちょっと。
おつきあい程度によそうだけ。
そして。やきそばっ。
皆の口に入りましたーっ!
その瞬間っ。
箸が止まった!(フォークですが…)
「これ。魚。入ってる?」
まずいっ!バレたー!
まずいっ!バレたー!
「いや。入ってない…。肉だよ。肉」と私。
すると。他の皆も。
「いや。魚の味がするー」と一斉に言った。
えーっ。魚の味を知っていたのか。
単に食わず嫌いかと思っていた…。
「あれ? 魚?入れてないけど~。あれ〜?
パウダーに入ってたのかもー』と。
パウダーに入ってたのかもー』と。
トボける私。そして。思わず。
「ごめーん」と言ってしまった…。
(あー。もー。バカーっ。謝るところじゃないのにー)
で。まあ。私も食べてみたのであるが。
やはり、隠し味で入れた。鰹節が強い。
これは失敗したかも…。
で、ゴロンゴロンした肉ではあまり出汁もでておらず。
やっぱり、
イカなんかも入れないと味的にも間抜けな感じ。
まあ。イカなんて。
あんな妖怪チックな生き物を入れたら。
食べてもらえないけど…。
そんなわけで。結局。
私の責任もあり、惨敗に終わったわけだが…。
なーんかわかったのだ。
私は。ずっと。
彼らの味覚を開拓したいと思っていた。
そして。私が。彼らの人生で。
最初で最後の日本人になることも自覚していた。
最初で最後の日本人になることも自覚していた。
だから。
一生ヨーロッパを出ることはないであろう彼らに。
上から目線ではあるが。
もっと『世界は広いんだよ』って示したかった。
でも。私がやっていることは。
日本食を食べて満足して平和に暮らしている。
日本のおばあちゃんに。
世の中にはハンバーガーもステーキもあるんだよ。
と目の前に置いて。
『ほれ。食え』ってやっているのと同じだったのではなかろうか。
おばあちゃんはハンバーガーを望んでいないのに…。
日本食がおいしいというのは。
世界共通の感覚ではない。
こんなフツーのことが自分は分かっていなかった。
つまり。
日本にいる外国人に。
日本は食事がおいしくていいでしょー。
とか言ってしまいがちだが。
それもかなり的外れで傲慢な発言なわけです。
それもかなり的外れで傲慢な発言なわけです。
だって。皆。自分の国の味が。
一番おいしいと感じるのだから…。
たとえそれが。
肉とジャガイモだってね (←またバカにしている)
肉とジャガイモだってね (←またバカにしている)
そんなことを思った。
チームランチ最後の日であった…。
p.s. ルーマニア人全員が上記のような特徴があるとは限りません。サンプル少ないのであしからず。